[完]初恋の人は死んでいた?!【短編】
「彌と入るなんて、久しぶりね」
母は、私の背中を洗いながら、そんなことを言う。
昔は、よく一緒に来ていた。
父に怒られたり、疲れたときなど、全てを洗い流すために。
だが最近は、部屋に閉じこもっていたため、まともに話すらしなかったのだ。
「いつも寝てるからね。…代わるよ」
今度は私が母の背中を洗う。
「お父さんね、心配なのよ。彌のこと」
ぴたっと止まると、母は私を見る。
「そんな事ない、と思う。
きっとお父さんは、私の事が嫌い」
だから、頭ごなしに何でもすぐ怒る。
「何、言ってるのよ。
あの人は、彌が大好き過ぎるのよ」
ふふふと笑う母が分からなくて、私は再び手を動かす。
「だけど、さすがに結婚はしてほしいみたいよ?」
「…結婚?
また、遠い未来のことを…」
あの人は急かし過ぎだ、と、母の背中を流す。
「仕方ないんじゃない?
彌は、"あの日"以来、男の人を好きにならないんだから」
私は、何を言われているのか、分からなかった。
何が"あの日"なのか。
「お母さん、あの日って何?」
私がそう尋ねると
「分からないの?」
と、不思議そうに見つめる。