ゆきんこ


タップした…通話の文字。

それでも、スマフォを耳元に運ぶのが、少し…怖くて。


まだ、左手に握りしめたまま。




『もしもし、』


それでも微かに届く…、彼の声。


『もしもし?……あれ、まだ電波悪い?…オーイ福嶋、聞こえてる?』


「…………。」


その声は…、いつもと同じ…低い声で。
けれど、急かすように…早口で。


少しだけ、彼の苛立ちを…感じさせる。



『聞こえない?……繋がってんのか、コレ。』


「…………。」



『もしもし?あーもう、何処に居んだよ。』



聞こえて来るのは、新野の声…、ただひとつ。
電話の先で、独り言のようにして…話し続ける。


『通話中だから、こっちの声は聞こえてるのか?…聞こえてんなら、またすぐ掛けるから…絶対出ろよ!』



何をどうして…そんなに切羽詰まった口調なのかは…わからないけれど。

相変わらず、せっかちな性格。

相変わらず、こっちの都合なんて…お構いなし。





変わらないなあ…、新野は。
ちっとも、変わってない。

そう思ったら…不思議と勇気が出た。





「ちょっと待って。」

ずっと飲み込んでいた言葉が…ついてでた。

「待って新野。聞こえてる。聞こえてるから…、切らないで。」



『ハ?…何、聞こえてんなら、何で黙ってんだよ…。あーもう、別にいいけど、アンタ今何処にいる?』


あれ?別に、いいんだ?

ああ…、そうだ。
新野って、こういう人だった。


気になることさえ解決すれば、ちっちゃいことは笑い飛ばしてしまうような…。


「………今?今は…」

『……風の音みたいな音、聞こえる。もしかして、外?』


「…ああ、ごめん。エアコンつけてたから…。」

声が風に妨げられているのかもしれない。


『エアコン?』

「うん、車の。」

『車って…誰の?』


あ。
…しまった。


「……私の…。」

『……乗せて…ないよな?』

「え。」

『だから…、誰も乗せてないよな?』


「……………。…うん。私一人だけど…。」


『………。』


「……?新野?」


新野の深い吐息が、ふう~…っと。
耳を…くすぐる。


『じゃあ…良かった…。』




気にする所……、そこ?!

何で車持ってるのかとか、そこは気にならないの?


『つまり、今飲み会の帰りだろ?あっぶね、間に合わないかと思ったけど、心配いらなかったな。』

「……?あのー…?」


『どこかのお節介ヤローが煽るようなこと言うから…邪魔しに来たんだけど。』

「……?……え、何?」


話が…見えない。


『てか、どのみち足止めされて…間に合わなかったか。』


なんて言うのか…。
新野らしいって言うのが…正しいのか…?


相手を置いてきぼりにするような、自由な発言。

それでいて、しっかりと…心を鷲掴みにするような、一瞬にして…引き寄せられちゃうような、セリフ。













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