ゆきんこ
5.「好き」




初めての男友達。



初めての…二人きりの放課後。




違和感を持つこともなかった、その関係……。




私は自分の部屋の鏡の前で……



じっとその姿を見つめる。


気になるのは……



やっぱり……唇。





私のファーストキスの相手は…




大切な……


とても大切な友達。






文人の笑った顔が。


切ないあの瞳が……



離れることはない。






けれど……



微かなドアを叩く音が、私を現実に引き戻す。



返事をする間もなく……



ひょっこりと顔をだしたのは…


父以外に、誰がいるだろうか……。



おかげでほんのちょっとホッとして……


気恥ずかしい気分。




「…なんだ。…幸、いたのか。」



「………うん。」



「…メシは?まだか?」




「………!」


しまった。
どのくらい……こうしていたのだろう。



「…今から作ろうと思ってたとこ。」



「……いや。なら、久しぶりに寿司でも食べに行かないか。」



どういう風の吹きまわしであろう。



珍しい父からの誘い。



「……行く!行きますとも!」



無類の寿司好きの私に、断る理由など…もちろん、ない。




「…そうか。着替え済ませてすぐ出よう。」



……あ。
私……、制服のまま…。



「…うん、わかった!」




所詮色気よりも食い気なのか……?


「寿司」のフレーズに、少しテンションが上がる。




「…10分!待っててね。」




僅かに笑みをこぼして去る父の背中が……


大きく見えた。



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