君という海に溺れる




海が色を増していく。

空へその青さを映すように。


ポロン、と響いた音は美しく鼓膜を揺すって。

私を彼の世界へと誘い込んだ。


奏でられるギターの音色と彼の声。

形のいい唇から紡がれる言葉は魔法のように響く。

体が、心が、記憶が共鳴する。


それは私の一番好きな歌。


少し高い彼の声で語られるこの歌が好き。

ひどく懐かしい、優しくて暖かなこの歌が。


彼によく似たそれは、初めてこの曲を聞いた日のことを思い出させる。


小さなベンチに腰掛けて聞いた。

初めて聞く音色に心踊らせた日のことを。




『君のためにつくったんだ』




そう言って微笑んだあの人。

その笑顔が蘇る。


目を閉じれば隔離された世界。

アダムが中心の世界。




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