君という海に溺れる




たった数段。両手で数えられる距離。

それが、私の世界と外の世界を隔てる境界線。


自分の部屋から下へと続く短い階段が、遥か長い万里のそれのように感じる。


此処を乗り越えること。

それが一日の中の一番初めの課題だ。




「………」




毎日変わりもしないその階段と私が睨み合いを続けている、なんて。

きっと誰も知らないだろう。

もし知ったなら、きっと笑い飛ばすことだろう。


この一歩のために毎日飽きもせず深呼吸を繰り返しているなんて、誰も知らない。

それにどれだけの勇気がいるのかなんて、知るはずもない。


例えるなら、地球は平らだと思っていた人が海の先に向かうような。

未知に向かうような気分。


臆病者の私はその一歩を躊躇ってしまうのだけど。

そこに好奇心など見つけることは出来ないけれど。




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