紅色。
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「なんだ千秋、今日は出かけるの?」

 いつになく綺麗にしていたあたしの部屋に入ってきたのは、壱兄だった。相変わらずのスーツ姿。学校に部活に行くのにもその恰好だと言っていた。子どもたちからは『カタブツ』とか呼ばれているらしい。そんな訳ないことは、妹であるあたしがいちばんよく知っている。

「今日は結婚式だって言ったでしょ、昨日もそう言った」

 壱兄はあたしの出かける予定にうるさい。

 別にあたしたちは付き合っているわけじゃない。壱兄とは実の兄妹ということになっているし、そんなことできるはずもない。

 でもあたしはよく、壱兄とデートに出かける。ガッコの先生たちに(あ、あたしは小学校の先生をしている。壱兄とは違う町の、ここから20分くらい離れた町の、小学校の先生。壱兄は母校の先生をやっている)、

「千秋先生、この間一緒に歩いていた、素敵な男性はだぁれ?」

 と、若手の女の先輩に突っ込まれる程度には。……ただし、あたしは浩兄ともデートするし、康兄がしつこいカノジョと別れたいときのダシにも使われる。だからまあ、とっかえひっかえといえば、あたしもそうだった。ただ、とっかえひっかえの相手が全部、兄貴というだけで。
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