溺れる唇

さすがに慌てて、体を起こそうとすると、
その頭をぐい、と押さえられた。

「いーから寝てろ」

笠井さんは取り押さえるようにして、
私を抱きこんだ。

ほんのりと香る男物の香水。

店にいた誰かが擦ってたタバコの匂いと
入り混じってスーツに染みついたそれが、
酔ったせいもあるのか、
ひどくセクシーに感じられた。

意外と逞しい肩が、しっかりと私の頭を
受け止めている。

「かちょ」
「俺、そう呼ばれるの、
嫌いだって言わなかった?」



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