恋わずらい
時計の針は7時を指していた。しかしいっこうに佐藤は来ない。
10分ほどして、メールが届いた。「ごめん、渋滞していて、今家についたから、もう少し待って。」
一人きりで待っていると、緊張して体が疲れてしょうがないから、香夏子は近くでチラシをくばっていたおばあちゃんとおしゃべりをしていた。
20分ほどしてから、どこからともなく、声が聞こえた。「加藤さん!」

佐藤は、赤いトレーナーに、黒のパンツというカジュアルな格好をしていた。講演会のときとはまた違う側面を見れたと思った香夏子は、そんな佐藤を見て少し嬉しく感じた。
「このへんだと、お年寄りしか住んでいないから、顔がわれにくいんだ。」
5分ほど歩いて、いかにも地元の人しかいかないようなレストランについた。
「ごめんね、この辺本当に店が少ないんだ。」
正直、そんなことどうでもよかった。ただただ、佐藤の隣にいれることが、香夏子は嬉しくてしょうがなかったのだから。

店に入ると、佐藤は慣れた様子で次々と料理を注文してくれた。日本人が中国にいった時、困るのが料理の注文だ。何がおいしいかさっぱりわからない。そんな日本人を何人も対応してきたんだなぁと感じた。

ビールで乾杯したとき、香夏子は今日が自分の誕生日だと伝えた。佐藤は驚くと共に、とても喜び、乾杯してくれた。それからの話は、一気に弾んだ。香夏子は自分の留学時代のことを話たり、佐藤は、物事には志が大事だと精神論を説いたり・・・香夏子は佐藤の言うこと全てに共感できたし、話をするとエネルギーをもらえると感じていた。
今でもわからないが、佐藤もきっとその時は同じ気持ちだったと思う。

話が一旦落ち着き、香夏子がお手洗いにたった。テーブルに戻ると、佐藤が言った。
「僕のうち、この近くなんだけど・・・・よかったら寄ってく?」

信じられなかった。

佐藤の家―行っていいの?もっと話をしたい。でも、男の人の家にすぐ行くような女って思われたくないなぁ・・でもでも、こんなチャンス、二度とないかもしれない。
一瞬、まよったが、すぐに香夏子はこう答えた。
「はい、行きます。」
香夏子が席を立った間に、佐藤は会計を済ませてくれていた。
2人は店を出て、佐藤の家にむかった。
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