魔天戦史
「あぁ……アイツのせいで、どれだけの血が無為に流されたことか………いや、君に言ってもしょうがない……早く家に戻ることだ。また襲われないようにな…」
「は、はい………」
晶は言われた通り、直ぐに寮に戻った。幸い、襲われること無く晶は寮に着いたが、寮に戻ってからも、襲われた恐怖は消えなかった。
「……クソッ………ソル・アルファディオ……ただじゃ済まさないからな……!!」
下水道から出て、人目を避けながら、フィルは何とか街の外の山に逃げ込むことができた。
「随分とボロボロじゃないか、フィル・リトアス君?」
「!?」
不意に自分の名を呼ぶ声に驚いて振り向くと、そこには山には似つかわしくないファーの付いたコートを来た若い男が立っていた。
「誰、アンタ………?僕は今物凄く機嫌悪いんだけど……?」
フィルの殺意がありありと湛えられた両目に見据えられて、男は大袈裟に両手をあげた。
「おっと、少しは落ち着きなよ。僕は君の敵じゃない……むしろ、味方も同然なんだよ?」
「味方だって……?」
フィルは警戒の姿勢は崩さずに男を観察した。
切れ長の目に漆黒の髪と瞳…東洋人だろうが、あまり信用できる物腰では無い。
「………アンタみたいな、うさん臭い味方を持った覚えは無いよ」
「……アッハッハ!これは驚いた!まさかうさん臭いと言われるなんてねぇ………!だけど、ソル・アルファディオ達に復讐しなくても良いのかい…?」
男のその発言に、フィルは体の芯から震えたのを確かに感じていた。