一緒に暮らそう
 全てを失った紗恵は故郷に戻ってきた。ここには彼女を女手一つで育ててくれた祖母が待っていてくれた。紗恵は両親の顔を知らない。母親は未婚のまま彼女を産んで、しばらくすると子どもを自分の親預けたまま東京へ行ってしまった。それ以来、母親とは会っていない。家族といえば育ての親である祖母一人きりである。祖父はとうの昔に他界した。紗恵は大好きな祖母と一緒に暮らそうと生れ育った日本海側の田舎町に戻ってきた。

 地元に帰ってからの数年間は飲食店でのアルバイトの日々が続いた。自分の店を開業するための資金作りをしていた。その間に愛する祖母が老衰で他界した。祖母の最期は紗恵が看取った。そして三年前、祖母が生前営んでいたタバコ屋兼駄菓子屋の店舗を借りて「ふたば屋」を開いた。現在は叔父がその不動産の権利を所有しているので、紗恵は彼に月々の賃貸料を支払っている。賃貸料と材料の仕入れ値、光熱費を差っ引くと、手元に残るお金はわずかだったが、彼女は自分の好きな仕事ができて満足していた。

 気が付いたら30を目前にしていた。もっとも、見た目は実年齢より若いみたいだが。
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