一緒に暮らそう
「もしもし」
「もしもし。俺だけど」
 携帯の向こう側から新多の声が聞こえる。
「あ、お疲れ様。講演どうだった?」
 今日、新多は恩師の講演を聞きに、京都にある母校へ行ってきたのだ。紗恵は努めて明るい声を出そうとした。
「良かったよ。君にお土産を買ってきたから、あげようと思うんだ」
「うわぁ。ありがとう。うれしいな。じゃあ、今度の週末にもらえるんだね」
「ううん。今、あげるよ」
「今?」
 紗恵の頭が一瞬、真っ白になる。聞き間違えだろうか。
「ああ。実は今、寮の前にいるんだ。車を停めてる」
「寮って、うちの寮!?」
 紗恵が驚きの声を上げる。
「そう。今、君んちの前にいるから、降りてきてくれないかな」
 紗恵は面食らった。新多はこんな時間にわざわざ京都からこの町にやってきたというのか。
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