一緒に暮らそう
「生麩まんじゅうです」
「うまそやな」
 中山さんは緑色のつややかなまんじゅうを見る。
「京都のお菓子だそうです」
「へえ。あんた、週末に京都に行ってきたんか」
「いえ。彼がお土産で買ってきてくれたんです」
「あんたの彼氏が持ってきてくれはったんか。昨日?」
「ええ。昨日の晩」
 紗恵は新多が弾丸のような旅をして、京都からこの町に来てくれたことを話した。
「生ものだからって今日中に渡したいって、わざわざ持ってきてくれたんですよ。京都に行ったその足で。私にはほんの数時間しか会えないのに」
「ふーん、『生ものだから』なぁ。あんた、そら方便に決まっとるやろ。ほんまはあんたに会いたいさかいに夜遅くにここまで来はったんや」
「え、そうなんですか」
「何言うてんねん。当たり前や。どうでもええ相手のために、夜中に疲れをおしてこんな田舎まで来るかいな。彼氏はあんたに会いとうてここまで来たんやで」
「そっか」
 そう言われるとますます嬉しくなってくる。

 あの後、新多が神戸のマンションに帰ったのは午前二時近くのことだろう。そして、その数時間後には出勤しなければならなかった。それを思うと、彼の来訪が申し訳なくも嬉しい。
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