一緒に暮らそう
「翔子。俺、この前言ったよな。『彼女のことを悪く言うな』って」
 新多の声色が一段低くなる。
「ええ。確かに聞いたわ」
「だったら何故そんなことを言うんだ」
「だって……私だっていつも言ってるじゃない! あなたが大事だから、あなたのためを思って助言してるんだって! そんな変な噂を聞いたら、誰だって不安になるじゃない!」
 新多は女にそこまで言わせている。
「噂はデマだ」
「どうしてデマだってわかるの?」
「お前が今言った社長の息子が言い寄ってきたが、彼女にふられた。そいつが腹いせに吹聴したホラ話だ。彼女がそう言ってた」
「彼女の言うことがホントかどうかはわからないわよ。あなたにバレたらまずいことをごまかしているだけかもしれないわよ」
「じゃあ、お前には噂が本当だって証拠があるのか」
「それはないけど、火の無い所に煙は立たないっていうでしょ」
「彼女はそのボンクラ息子からストーカー被害を受けてたんだぞ。そいつに店まで荒らされたんだ。俺もこの目でその場を見た。勝手な推測をしないでくれ」
 紆余曲折とはそういうことだったのかと、翔子にも少し事情がわかってきた。
「何で最初からそういう事情を話してくれないのよ」
 翔子は目に涙をにじませた。
「お前には関係のないことだ。それにたとえ噂が本当だったとしても、俺に彼女の過去を裁く権利はない」
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