一緒に暮らそう
「でも私、負けないから」
 紗恵が言う。
「こんな理不尽なことには絶対負けないから」

 斉藤は紗恵の姿を見下ろしている。
 辺りにはぶちまけられた惣菜の臭いが立ち上っている。

「『負けない』必要なんてないさ」
 新多が言葉を発した。
「え、どういう意味?」
 紗恵が涙ぐんだ目で彼を見上げる。
「こんな理不尽なことに耐える必要はないってことさ。あほらしい。こんなおかしな町のおかしな連中の手前勝手なやり様になんか、振り回されることはない」
 紗恵はきょとんとした表情をする。

 新多が彼女の顔を真っ直ぐに見る。
「一人のか弱い女が町のゴロツキから嫌がらせを受けているのに、周りの連中は助けもしないし、警察も見て見ぬふりだ。こんなひどい町からはさっさと出ていくことだ」

 おまけに、よそ者の新多の耳にまで、紗恵についての誹謗中傷が入ってきたのだ。田舎町というものは狭くて窮屈な所だ。
< 38 / 203 >

この作品をシェア

pagetop