一緒に暮らそう
「あなたはそうは言うけど、一体どこへ行けばいいの? 私には行く当ても引っ越すお金もないのよ!」
 紗恵は語気を荒げる。

「今日、会社で辞令が出た」
「辞令?」
 紗恵が首を傾げる。
「ああ。転勤を命じられたんだ。行き先は神戸だ」
「神戸」
「ああ、そうだ」
「それは……この田舎町から都会へ転勤ということは、きっとご栄転なのでしょうね。おめでとうございます」
 紗恵はぺこりと頭を下げる。

「ありがとう」
 新多が付け加えた。
「君も一緒に来ないか」

「え?」
 紗恵は一瞬自分の耳を疑った。この人は、このお客さんは、今何と言ったのだろうか。
 でも、やっぱり確かに今彼は「一緒に来ないか」と言ったはずだ。これは一体どういうつもりなのか。紗恵の頭は混乱した。
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