一緒に暮らそう
 車のエンジンをかけサイドブレーキを上げた。
 
 あの女の子が例の「元キャバクラ嬢」なのか。とてもそんなふうには見えない。社の連中は「色っぽいお姉さん」と言っていたが、白い三角巾をピン止めで留めたその姿は清純そのものだ。あえて色っぽい部分を指摘するとしたら、口元のほくろだ。
 あんな言い方をするものだから、てっきり厚化粧の派手な女が出てくるのかと思っていたのだが。

 年の頃は24、5だろうか。自分よりも10歳くらい年が離れているのだろう。
 あんな可憐な娘に、本当にそんなきわどい過去があるのだろうか。金のために何でもやるような女が、何であんな小さな惣菜屋なんかやっているのだろう。本当にそんな女なら、甘い汁を吸うことに味をしめて、町の盛り場ででも働いているはずだ。

「元何とか」というのは根も葉もない噂に違いない。田舎者は罪も無い若い女に無責任な陰口をいうものだ。
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