一緒に暮らそう
店の中に入ると、中は黄色くやわらかい光に包まれていた。だるまストーブがゴウゴウと音を立てているのが見える。陳列台の上から、青菜と油揚げの和え物と唐揚げ弁当を選んで彼はレジに進んだ。閉店間際で2割引になっている。
レジには誰もいない。部署の連中によれば、この店には「色っぽいお姉さん」がいるはずなのだが。

「すみません」
 新多が声を掛ける。狭い店の中には、だるまストーブの作動する音だけが響いている。
 
「いらっしゃい」
 背後から鈴を転がしたような声がして新多は振り返る。
 そこには、一人の華奢な若い女性がいた。
 栗色の髪。抜けるような白い肌。つぶらな灰色の瞳がこちらを見上げている。
 その可憐な微笑みに新多は一瞬言葉を失った。
「750円になります」
 促されるままに新多は代金を払った。一体いくら支払っていくらおつりが戻ってきたのかわからない。彼はレジ袋を受け取ると、呆然としたまま店を出た。

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