一緒に暮らそう
 4月下旬から紗恵が働くことになったのは、山あいの温泉地にある介護付き老人ホームである。

 7階建てのモダンなマンションの中に、入居者の個室と食堂、公共スペース、介護施設などが設置されている。同じ敷地内に職員寮が併設されているので、職員は24時間体制で入居者の面倒を見ることができるようになっている。浴室に温泉が出るのがセールスポイントだ。

 紗恵の担当は調理場のスタッフだが、調理だけでなく、配膳や後片付けまでしなければならないハードな仕事だ。早朝から地元のパートの主婦と共に仕込みを始め、夜は夕飯で出した膨大な数の食器の洗浄に追われる。食堂のテーブルを拭いて、全てが終わる頃にはすっかり夜も更けているという次第だ。

 調理員として雇われたはずなのに、介護士の手が忙しい時は彼らに代わって入居者の介助までしないといけない。特に、肢体の不自由な入居者の食事の介助に手間を取られる。
 経営者側は職種の垣根をあいまいにして、ギリギリの人員で業務を回している感じだ。従業員のなり手がないから、紗恵でも簡単に就職することができたのかもしれない。

 それでも、福利厚生がきちんとしている常勤の仕事だからありがたいと紗恵は思っている。これで当面、生活の心配はしなくて済む。

< 67 / 203 >

この作品をシェア

pagetop