Romansia
「生まれたときから……、ですか」

男の顔に照り映える、橙色や、黄色や赤の灯りが、彼の精悍な面差しを柔らかく見せた。

「私も、そのようなものですね。幼い時分から1人で漁をして、日々長らえてきました。まあ、周囲の助けがあってこそですが」

そうして、あたしのほうを見ながら苦笑した彼の瞳を見た。
あたしは、胸がざわついた。
初めてだった。

でも。
あたしは鬼。
人喰い鬼。
人々の恐怖心に巣くい、とり憑き、彼らの哀しみを苗床に育ってきたのだ。

あたしは、頬にしなだれかかる髪を耳に掛けながら、上目遣いに男を見た。はっきりと目が合った。

「今晩、ご予定はございます?」

男は、少し驚いたように眉を上げながら首を振った。
あたしは片手で着物の袖を押さえながら、川の先を指差して言った。

「あたくし、あの辺りに宿を取ってございますの。港を一望できる、素敵な部屋ですわ。昨日のお礼に、屋形船の灯りを眺めながら…」

そう言って首をかしげるあたしの意図を汲んだのか、男はいいですよ、と答えた。

差し出された男の腕に、自分の腕を絡めながら、あたしは心の中で彼に謝っていた。

そう。
これでいい、これでいいのだ。
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