阿修羅
ひとしきり泣いたあと、兄は私の肩に手を置いて、私の目を覗き込みました。

「朝子」

「兄様……。これ……」

兄はふと、泣きそうな表情をしました。

「母さんの弱みにつけ込んで、あまつさえ、朝子まで苦しめたこの男が、僕は許せなかったんだよ」

私は唇を噛みしめ、首を横に振りました。

兄は、そんな私を無言のまま見つめていましたが、やがてその温かな指で私の涙を拭ってくれました。

「いいかい、落ち着いて。これから僕の言うとおりにするんだ」

男の屍体に歩み寄り、シャツの首すじを掴むと、こう続けました。

「僕はこれから、こいつを処理してくるから、朝子はこの部屋を掃除してくれ。それが終わったら、着替えておいて。すぐ出かけられるように」

私はただそれに従うしかできませんでした。
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