エゴイスト・マージ

……先生……先生


今の私じゃ何もかもが足りないけど
助けたい、私が先生を変えたい
きっと他の誰かじゃ出来ないと思うの

ていうかそう思い込もうと必死になってる
自分がいる




何故、先生に対してそう思ったのか

明確な理由が今は未だ分からない


単にそう思っただけ


それじゃダメなんだろうか?


人を好きになるという意味が分からないという先生と
意味は知っていても好きなったことがない私では

どうなんだろう

これは恋愛じゃない


じゃ……これは一体何なの?








受験勉強という名目上
問題集をしながら

分からない事があれば先生に聞く
というスタンスはちゃんと取ってる

実際、必要な科目だけに一石二鳥だしね

ただ、教えてもらうのは昼休み限定でと
条件は付いているけど



静かな空間で先生の
ページをめくる指先を目で追う


前から気になっていた

先生は授業の他で特別用のある時以外は
何かしらの本を読んでいる

それは大抵洋書らしき本であったり
私からしたら数字の羅列にしか
見えない本だったりするけど

共通するのは必ず片手で
持つには絶対ムリそうな
ページ数の半端ないモノだった


多分、話し掛けなければ
私の存在さえ危ぶまれる程
時々考え込むように見入っている


「……いつも何を読んでるんですか?」

先生は顔を上げて、一瞬目線を泳がし
私に辿り着く

「何だ?」

今、絶対私の存在忘れてた
……ええ、慣れてますけど

「いつも難しそうな本を読んでるけど
何を読んでるのかと思って」

「あぁ?知らね」

そういいながら
本を閉じて背表紙を確認する動作をする


「分からないモノ読んでるの?」

「分からないから読んでるんだ」


……意味が分からない


先生は、タイトルらしき言葉を口にすると
再び本を広げ読み出した

「もっと楽しいの読めばいいのに」

「楽しいの基準が分かんねーよ」

本から視線を上げることなく
返答だけが返ってくる

「例えば……」

コレっていうのが
思いつかなくって言葉を飲む

「難しいからいいんだ」

「え?」

「難解であればあるほど没頭できるだろ
余計なことを何も考えなくていい」

先生が独り言のように言う


「それに……枕にもなるしな」


「…………」



……それ、ベタだよ先生


毎日先生の色々な面を知る

大抵はバカにされたり
嫌味を言われたりと
散々な思いはしてるけど

過去を知ったからこそ
ただ表面的に見ていたあの頃とは
違う意味で先生の言動を受け止められてる
気がする

「アレ?お前まだいたの?」

読み終わった先生の一言

「…………」


今日もまた若干の殺意を感じつつも
先生改造計画を密かに遂行しようと
改めて心に誓うことにした


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