エゴイスト・マージ



「こっち」


いきなり背後から声が聞こえて

びっくりして振り向くと蔦さんが
校門脇の生垣に座り込って
手を振っていた

「来ると思たわ」

「え?」

「結構時間かかったね、もっと早く
来てくれるかと思ったのに」

「……蔦さん、足早すぎです
すぐ教室出たのに見つからなくて」

はは、と一笑された

「ところで、三塚先生の事知りたいん?
俺の顔みてソワソワしてたもんな」

……読まれてる

「で、何処まで知ってるんかな?」

ニッコリ笑ってる表情からは見た目
先生の見せ掛けの優しさに
似てる感じだけど
その実、私を試すかのような
意味合いを孕んだモノで

まるで値踏みされてるみたいな
感覚を覚えた
だけど、不思議と不快感は感じない

理由はきっと
友人として先生が正体をバラす程の
相手なのか見極めようとしてるのが
ひしひしと
伝わってくるからかもしれない

……自称なんかじゃない先生の
本当の友達なんだと私に伝える為に


私は覚悟を決めて
取り合えずそれまでのいきさつを
掻い摘んで説明した

蔦さんの表情がみるみる変わっていくのが分かった

「正直驚いてる。醒ちゃん、自らか?」

私は小さく頷く

「よう親の事まで話したな……あの醒が」

信じられん、そんな事と呟いた

(え?)

何だろう?一瞬射抜くような視線の
鋭さに見えたはずの蔦さんの顔は
もうニコニコしてて

「気ィ付いてると思うけど
一見人当たり良いくせに
一皮向けば最悪やろ?」

ここ笑うトコやでと私にウィンクを投げる


「俺、同じ施設出身なんよ。
あ、施設って分る?」

「なんとなく……」

「ええよ、それで。少し、歩かへん?」

流石に校門で二人で喋ってると
皆がチラッと見ていくのを察して
そう蔦さんは切り出してくれた

「相変わらず、
女に手当たり次第やってるやろ」

「ええ。そりゃもう」

私の言葉に蔦さんは苦笑いした後

そやけど、と話出した

「醒、生徒には手を出してへんやろ?
あそこにはそういった被害を
受けた子供も仰山いてて、無意識的に
そうなるんやろうな

女好きとかいうんちゃうからな、
アイツの場合」

前に先生に同じ事を聞いたとき
はぐらかされたけど、
そういう理由があったのかと
初めてこの時知った

「先生のコト、よく見てるんですね」


ポケットからタバコを取り出すと目で
吸ってもいいかと聞かれた気がしたので
私は黙って頷いた



「ちょい昔の話しょーか?」



蔦さんは前髪を上にかき上げる動作を
した後、タバコに火を付ける

「そういった施設ってな、
ワケありの子供達が多いねん
各自思うところがあるからなかなか
馴染めんとかあるんやけど……」

と話し始めた



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