エゴイスト・マージ

半信半疑、緊張MAXで指定された
場所をウロウロする。

あまり車が通る場所ではないんだけど、
何台か通り過ぎるのを見て
自分が先生の車を知らないのに気がついた。


暫くして、滑るように近づいてきた白い車。
車に詳しくないから車種までは分からないけど
あまり見かけない車だった。

「そこのお嬢さん、送ってあげようか?」

いきなり、サングラスをかけた男の人に
声を掛けられた。

「結構です。人待ってるから」

「へ~彼氏?」

「いや……その」

まさか先生ともいえず、そもそも
知らない人に誰を待ってるかなんて
言う必要もないし。

「で誰、待ってるの?」

だから、誰って

「ちょっと気が短い、我侭な……友達です」


ナンパの人が帽子とサングラスを外す姿に
愕然とした。


「…………って、それが俺とか言うんじゃ
ねーよな」



さっきからフォローを入れ続ける車内。
それでも不機嫌そうな横顔に
段々私もキレてきた。

「だいたい先生だって声色変えて
ナンパのフリしてくるから悪いんじゃない」

「お前があまりに無防備に立ってるからだろ」

「だからって」

彼氏とか言ったらそれこそ
バカにするくせに……

「周りウロチョロしてる割に
俺の車知らなかったのか?」

「ウロチョロ……
車って皆同じにみえるんだもん」

「少なくとも俺の車だけは覚えとけ」

確かにあまり見掛けない車種だった。
先生曰く年式が古いから
今時マニアしか乗らないかもな、と言われた事で
先生もそうなの?と聞き返すと、

俺はたまたま手に入れただけだと
ハンドルを切りながら話してくれた。

先生が運転してる姿とかフツーに考えれば
当たり前の事なんだろうけど。
なんか意外な感じがする。

しかも、サングラスをかけている雰囲気が
また、格好良さを引き立てていて……


と、先生は前を見たまま

「俺に見惚れんなよ」


自分でも気が付かないほど
食い入るように見てたんじゃないかと思うと
恥ずかしくて、つい

「全然。先生なんか見てないから」

そんな言葉を返して、
プイと視線を逸らしてしまった。




(見惚れないわけ……ないのに、バカ)


学校では見れないこんな所で
先生を独占してるような錯覚に陥る。

こうやって改めて見るとやぱり
凄く格好良くって、
横顔を盗み見ては、真剣に運転してる姿とか
より大人の匂いがするように思えて
眩暈がしそうになった。





程なくして辿り着いたマンション。

先生の後をついて私の足取りは、
フワフワしてて、歩き方を忘れたかの様に
覚束無い。


通された部屋は思った以上に
生活感がまるで無い簡素なモノだった。

1LDKのフローリングの部屋には、
備え付けのクローゼットの他は
シンプルな机とベットがあるだけ。

TVはおろかいつも読んでいる本類も
殆ど見当たらなかった。

「本、もっとあるかと思った」

「ん?ああ、一度読んだら
大抵覚えてるから持ってる意味がないしな」

言いながら、上着を脱ぐ姿に
ドキッとする。

普段、キッチリ背広を
着ているイメージしかなくって、
なんか感じが違うと思った途端、
先生をまともに見れなくなった。

「き、綺麗な部屋というか
……何も無いんですね」

「蔦の家くらいしか行ったことないから
よく分からんが、十分生活に事足りてる」

「蔦さん?どんな感じですか?」

「アイツは仕事柄、書類とか
色々あって足の踏み場が無い」


蔦さんの仕事ってなんだろ?


にしてもやけに、この部屋、片付いてない?

「……ここに女の人連れ込こんでるの?」

「くだらない」

(くだらなく……なんかないよ)

いいから座れと促されて、


「お茶でいいだろ?」

そういって運ばれてた白いカップは琥珀色の
香ばしい匂いを伴っていた。

「いい香り」

二人でこうしている空間に少しは慣れた筈なのに
こうもシチュエーションが違うと落ち着かない。



今日、何で急に課外授業が始まったのか
なんで……いきなり先生が
家に連れてきてくれたのかとか

聞きたいことは山ほどあるのに。

先生をいつものように見れなくて、
心臓が壊れるくらいにドキドキしていた。
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