エゴイスト・マージ

そう言うと徐にベット横の
台の引き出しを開け何かケース
らしきものを取り出した。

そして暫く俯いた後、裄埜君は
ゆっくりと顔を上げた。


「!!」


それは衝撃以外の何者でもなかった。


「う……そ……」



「何?虹彩異色症なんて
今更珍しくも無いだろう?」


全く余計なトコだけ一緒だと彼は呟いて、
その右手に外したカラコンを握り潰すように
拳に力を込めたまま。


「――その狂った姉ね、

ご丁寧に子供に弟と同じ名前を
付けていたんだ、笑えるだろ?
お陰で探す手間が省けたよ。
まぁ、その前にコレですぐ分かったけど」

苦々しく表情を崩して
左目を押さえた。


「う……うそ、嘘」

信じられない、そんな事。
有り得ない。

もう頭の整理がつかないまま
意味の分からない事を口走る自分がいる。

「嘘、じゃないよ。
残念ながら何もかもね」

私は瞬きも忘れその目から
視線が離せなくなってしまった。


「で、でも、でも姓が……」


「親父の実家、事のほか世間体を気にする
家柄でね、発覚を恐れて子供と関係を
絶ったり、隔離したりするような親だよ。

曰くつきの孫なんか関わりを
持ちたがる筈がないだろ?
大枚払って養子に出してあげく、
ご大層にわざわざ姓を変えさせたそうだ」

「…………」

「会った事もない祖父母なんてどうでもいい。
寧ろ、俺の矛先は直接俺の家族に害を及ぼした
相手の姉と……その子供の方に向いてる。

だってそうだろ?
どんなに俺達に優しくっても
親父の心にはいつもアイツ等がいたんだ」



「せ、先生は知ってるの?」

「さぁね」

裄埜君は吐き捨てるように言った。

「ただ」

「何?」

「調べたその探偵っていうのが偶然
アイツの知り合いだったらしく
本来、守秘義務で言えないけど
相手にも俺という存在を教えてあげたい
いいか?と言われたんだ」

先生の知り合い?

「別にこっちは知られて困ることは無い
だから、好きにすればいいと」

「先生は、先生は何て?」

「“興味が無いから聞く必要はない”
ってけんもほろろだったってさ」

「…………」

それは、あまりに先生らしい
答えだと思った。

家族との縁が薄く、自分の母親を
魔女と呼ぶ先生に他の肉親を
必要とするとはどうしても
考えにくくて……


「アイツ等さえいなければお袋は
もっと楽に生きられた。
家庭を、俺のお袋を苦しめた。
全ての元凶はアイツらに」

「それは、ちっ……」

「違う?俺の言ってることは矛盾してる?
だけど真実だ」

吐き捨てるように言われた言葉は
悲痛な叫びにも似て、
どんなに彼に重荷だったか
到底私などが分かるはずがない事だった。

「…………」

そんな彼に今、どんな言葉を
かければ良いのか私には
何一つ浮かばなかった。
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