エゴイスト・マージ


「偶然、俺がここに入学したと思った?」

裄埜君は静かに口角を引き上げた。


「…………!」


何故。

何故気が付かなかったんだろう?

こういう表情ひどく似てるのに。


一見全く違う。

でも、そういう目でみると
それ以外ないというくらいに良く似ている。

表情が?雰囲気が?


分からない……でも、


そう思えて仕方なかった。



「アイツという存在を知って、
俺は、高校受験直前に
進路を急遽ここに変えて来たんだ。

それもこれも
自分の大事な人を奪われる苦しみを
アイツに味あわせたくって。

我ながら稚拙な考え方だとは思うさ。
でもね、コレ案外効果的なんだよ」


「でも、先生には意味がないから」


「……そうかな?
俺は三塚をずっと観察しその機会を狙っていた。
だけど女関係は派手なクセに
特定の人を傍に置かない。
どうしようかと思案してる時に
君という存在を知った」

「え……私?」

「何時だったか、アイツが君を抱えて
保健室に運ぶのを見た事があったしね」



「あ、あれは――」

否定しようとしたとこで
裄埜君の言葉に遮られた。

「入学して以来何年もアイツを見てきたんだ
少しの変化だって気づくさ」

私の言葉を見透かしたかの様に私を諭す。



「だから?
だから、私に近づいたの?」


「否定は、しない」


それまで私を見ながら話していた
裄埜君の目は逸らされ、外を見るように
身体を窓に向けた。


あ……


「例の本、ホントは俺が勝手に君の机から抜いて
わざと目立つように返しに行った。
アイツまで噂を広めるには手っ取り早いしね」

外をみたままこっちを見ようとしない。

そういうとこ先生と違うね。

先生はこういう事をいう時ですら
絶対視線を逸らしたりはしない。
相手の目を見ながら落胆する様を
観察するように見ているから。

多分それが裄埜君と先生の大きな違い。

そして、それが裄埜君の持つ
優しさなんだと思う。


「……あの駅、本当は使ってないんでしょ?」

今度は裄埜君が私を驚いた顔で振り返った。

「…………何故?」

「あの時間38分発の電車ないよね?
私が見えなくなった後、駅に戻って又帰ってたの?」

「気が付いてたんだ?」

「全ては私を利用するためだったんだね」


「……ああ」


小さく呟き、
そして、やっぱりまた視線を外すのね。


「私もやっと謎が解けたよ」

「謎?」

「うん。だって裄埜君みたいな人が
私を好きとかいうからおかしいって
思ってたんだ」


「…………何で怒らないの?」


「ショックだけど、告白された時、
やっぱり嬉しかったし」


「雨音」


「だから全然怒ってないよ、
寧ろ夢見れて良かったかも」


「雨音!」


裄埜君は語気を強めた。

「何で笑いながら言うの?
それって俺なんか
どうでもいいってこと?」

「裄埜君?」



悲しいと思う気持ちだって嘘じゃないし、
ショックを受けたって事は本当だけど
だからって私が裄埜君を責める
理由にはならないでしょう?

私は裄埜君が本気で接してくれてると
思っていた時、私は先生のことばかり
考えていた。
裄埜君を好きになろうと思うこと自体が
おこがましいことだし、裄埜君に
後ろめたさを感じずにはいられなかった。

今、本当のことが聞けて
どこか良かったと思ってる自分が
いるのも確か。

だからこそ、努めて何でもないフリした。


なのに裄埜君の何でそんな事言うのか
分からない。


それは裄埜君自身も感じているのか、

「ごめ。何言ってるんだ俺。
自分から言っておいて」




「ううん。
裄埜君も先生もきっと誰も悪くないよ」


「いや、少なくとも三塚とあの女は!」




「裄埜君、本当にそう思ってる?」


先生の事憎みきれてないんじゃない?
私に話したのはどこかで自分を止めて欲しいと
思ってるからなんじゃない?

行動力がある裄埜君が私なんかを
利用しなくても復讐するなら
もっと違う方法沢山あるはずなのに、
こんな回りくどいやりた方をするのか
不思議におもえてならない。



「裄埜君から見て今の先生幸せそう?」



「……!?」




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