12年目の恋物語

「ハル!!」



だけど、ハルの返事はなくて。



ハルの意識は、まるで戻らなくて。



オレは本当に間に合ったのか、分からなくなって。



息はある。



心臓も動いてる。



だから、

きっと大丈夫だと、

大丈夫に違いないと、

オレは祈るような思いで、

意識のないハルの手を握った。



保健の先生がやってきて、

担任がかけつけて、

だけど、誰も、見守る以外の何もできなくて。



それから、遠くに救急車のサイレンが聞こえて、

担任が誘導に走った。



オレは慌てて、ハルのじいちゃんに電話をした。



「じいちゃん? オレ、叶太」

「おう。カナくん。どうした? こんな時間に」

「驚かないで。ハルが倒れて、今、救急車呼んだ。そっちに運んでもらうから、待機してて」

「分かった!」

「意識はない。呼吸はかなり苦しそう。でも、心臓は動いてる」

「ああ。ありがとう!」



隣で聞いていた斎藤が、「誰?」と聞いてくる。



「ハルのじいちゃん。ハルんちも病院なんだ」

「運ぶ……って」

「牧村総合病院。知ってる?」

「知ってる、って!? 知ってるに決まってるだろ!」

「はは。でかいもんな」



血の気のない冷たいハルの手を握りながら、斎藤の存在をどれほどありがたいと思ったか。



「院長だからさ、外来もないじゃん。病院にいたら、飛んできてくれるから……」

「そっか。心強いな」

「ハルのお母さんも医者なんだけど、そっちは、たぶん、忙しいから……」



そんなことを説明しながら、ようやくオレは心の平静を保っていた。



心の中では、ひたすら、

ハル、頑張れ。

ハル、頑張れ。

と、唱えていた。
< 147 / 203 >

この作品をシェア

pagetop