12年目の恋物語

ハルは、言う。



「もう一人で、大丈夫だから」



それが、最近のハルの決め台詞。



「カナは、自由にして」



そうは言われても、オレは自由意志で、ハルのところに来るのを選んでいる。

今だって、十分すぎるほどに、自由だ。



「ムリにわたしに付き合うことないから」



いや、ムリなんて、カケラもしてないし。



ハルの鞄を持ち、

たまにハルの手を取り、

ハルの歩調に合わせて、

ゆっくり、おしゃべりしながら歩く。



オレの肩の位置に、ハルの頭が見える。



ふわっとした柔らかい髪が揺れる。



くるんと巻いたつむじが見える。



「ねえ、カナ、昨日の夜ね、」



と、ハルが上を向いて、オレの方を見上げ、他愛もないことを話す。



大きな目がくりくりと動き、赤い唇がオレの名を呼んで動く。



思わず、頭をグリグリなでると、



「やだ。髪の毛、ぐちゃぐちゃになっちゃうよ」



と、笑いながら、ハルが頭を動かす。



ハルの机まで、鞄を運ぶと、ハルが、



「ありがとう、カナ!」



と、満面の笑みを見せてくれる。



オレは、ハルのそんな笑顔を見ると、胸がほわっと暖かくなって、幸せで、幸せで……。



つい、この前までは、そんな幸せな毎日が、高3になるまで続くのだと思っていたのに。



学校公認カップルと言われ出して何年だろう。

小学校の高学年頃には、もう言われていた。



「ハルちゃん命の叶太くん」


 
そう言われていた。



それなのに、どうして、こんなことに?
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