12年目の恋物語
「ハル、帰ろう」
放課後、カナがわたしを呼びに来た。
「図書館に寄っていくから」
うちの学校の図書館は大きい。校舎とは別館になっているし、市立図書館並の蔵書を揃えている。
だから、図書室ではなく、図書館と呼ばれている。
「分かった」
カナは、そう言って、わたしの鞄に手を伸ばす。
「いいよ。一人で行くから」
「でも、」
カナの傷ついたような顔を見るのが、辛い。
でも、ムリヤリでも、この手を離さなければ、きっと、カナはいつまでも、わたしの面倒を見ようとしてくれる。
「一人で行くから」
「付き合うって」
カナも譲らない。
「本を選ぶ時とか、邪魔しないし」
カナは本はほとんど読まない。
だけど、わたしが書棚の前に立つ時には、たいてい、隣にいる。
そうして、小声で面白そうに、「こんなの読むんだ。どんな話?」なんて聞いてくる。
そんな時間も、今では懐かしい。
……楽しかったなぁ。
また、目が潤みそうになって、慌てて、唇をぎゅっと引き結んだ。