12年目の恋物語
中等部の2年生のとき、図書委員になった。
本が大好きだったので、初めて立候補して。
カナは例によって心配性で、委員なんてやるなよとか何とか言っていたけど、わたしはやってみたかったから。
初めての委員会で、羽鳥先輩に会った。
「あれ?」
と、最初に言ったのは羽鳥先輩。
なんだろう、と小首を傾げると、先輩はにっこり笑った。
一見キツそうに見える眼鏡の奥の切れ長の目が細くなり、それだけで、グッと人なつこい感じになる。
「市立図書館で会ったよね」
そう言われて、思い出した。
中等部の図書室は小さくて、本の種類も少ない。
だから、街の図書館に行ってみた。
そこで、棚の上の方にある本を取ろうと、踏み台を探していたら、
「ここにあるよ」
と、持って来てくれたのが、目の前の先輩だった。
背が高くて細身で、眼鏡をかけている。
とても頭が良さそうな人。
一見、切れ者で冷たそうにも見えるのに、笑うととても優しい。
小声で、
「ありがとうございます」
と言うと、先輩は気さくに、
「どういたしまして」
と言って、そのまま書棚に並ぶ本の背表紙に、視線を戻した。
「あの時は、ありがとうございました」
ぺこりと頭を下げると、先輩は手をひらひらと振って笑った。
「お礼を言われる程のことじゃないよ」
委員会はまだ始まらない。
「本好き?」
「はい」
「……って、そりゃそうか。図書委員だもんね」
「先輩も好きですよね?」
「もちろん」
それから、委員会が始まるまでの間、どんな本が好きかとか、色んな話をした。
じきに、本の貸し借りをするようになり、それは、先輩が卒業するまで続いた。