12年目の恋物語
翌日。



「なあ、斎藤」



体育の授業の帰り、オレは、またしても斎藤にぼやいていた。



「ん? なに?」

「オレ、…………ハルに」

「ん? ハルちゃんがどうした?」



既に過去、何度も愚痴っていたせいか、斎藤は軽く聞き流す気満々の生返事。



「オレ、ハルに嫌われたのかな?」



他に好きな人ができたのかな、じゃないところが、オレの悪あがき。

口に出したら、本当になってしまいそうな気がして、言えなかった。



「……ケンカ? 長いよな~」



面倒くさそうに、そう聞き返しつつも、斎藤はケンカだけじゃないよなって顔。

なぜなら、斎藤はハルの隣の席で、毎日、オレとハルのやり取りを見ているのだから。

ケンカして、ちょっと仲違いって感じじゃないのは、よく分かっているだろう。



「そもそも、ケンカなんてしてないって」



何度も言ってるだろう、と思うけど、斎藤はまるで興味なさげに明後日の方向を見ている。



「なあ、オレ、どうすればいいと思う?」



斎藤はようやく、オレの顔をマジマジと見た。



「だからさ、オレに聞くなって」

「いや、だけど、おまえ、なんか話しやすいんだよなぁ」



今さら、以前からの友人には言いにくい……と思っていたのは最初だけ。

何気なく斎藤に話し出したら、妙に話しやすい。

それは、紛れもない事実。

知り合って、ようやく2ヶ月とは、とても思えない。

コイツといると、まるで、昔からの友だちといるような気になる。

いや、同い年なのに、落ち着いていて、むしろ、先輩とか兄貴とか先生とか、そういう人たちといるような気になってくるのだ。



「話しやすくなんか、ないって!」

「あるって~」



そうして、更に、



「友だちだろ~。教えろよ~」



と続けると、斎藤がうんざりしたような顔でオレを見る。

そして、ため息。



つ、冷たい。



「オレ、恋愛って分かんないから」



斎藤が噛んで含めるように、オレに言う。



「いや、……正直、オレも分かんないよ」



本当に。



いや、もう、本当に!!



だけど、斎藤は続ける。



「いや、オレはもっと分かんないから」

「……拓斗くん、冷たい」



斎藤拓斗(たくと)、それがコイツのフルネーム。

オレの言葉に、斎藤がふううぅぅっと大きなため息を吐いた。



「オレ、女の子に興味ないし」



えっ!!?



「なに! 斎藤、男の子好きなの!?」

「バッ!! 違うわっ!!」



斎藤が慌ててオレの口をふさいだ。
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