12年目の恋物語
「羽鳥先輩」
先輩は、いつものように、優しくにっこり笑う。
暗かった辺りが、急に明るくなったような気がした。
肩の力が、すうっと抜けた。
「ごめんね。邪魔しちゃったかな?」
「いえ!」
思わず、大きな声がでる。
「ぜんぜん邪魔じゃ、ありません」
自然とこぼれる言葉は、紛れもない本心だった。
先輩は、くすりと笑った。
「ありがとう。じゃあ、お邪魔させてもらうお礼に、いいモノをあげよう」
そうして、ポケットに手を入れると、わたしの目の前に、小さなお茶の缶を差し出した。
「え?」
「暖かいよ」
先輩は、早く手を出しなさい、というように缶を軽く揺する。
「あの……」
「今日、梅雨冷えだよね。寒いから、ね」
優しい笑顔につられて、受け取ったお茶は、とても暖かかった。
両手でお茶を包み込むようにして持つ。
そうして、ようやく、自分がこごえていたことに気が付いた。
いつの間にか、涙がこぼれ、先輩がわたしの頭を優しくなでた。