12年目の恋物語

オレは、またしても、バカみたいにポカンと口を開けた。



おい。



勘弁してくれよ。



羽鳥先輩だけじゃなく、いくらでも、かよ!?



「だから、さ、もう少し、なりふり構わず、行った方がいいって」



志穂が、オレを気の毒そうな目で見る。



やめてくれ、まだフラれたわけじゃないんだから!



「それに、というか、それより、なんだけど。わたしは、陽菜の身体が心配だよ」



志穂は、小さくため息を吐いた。

幸せが逃げるぞ、と言おうとしたら、先に言い訳された。



「ま、わたしだって、たまにはそう言う時もあるって。……陽菜が悩んでるの分かってるのに、ぜんぜん力になれてないんだもんなぁ」



その言葉が、オレの胸に突き刺さる。

コイツのため息は、自分のためじゃなくて、ハルのためのものだ。



「あの、さ、斎藤なんだけど、呼んだ方がいいなら、呼ぶよ」



志穂がオレの方を見る。



「別に、斎藤に話すのがイヤとかじゃないんだ。

ただ、斎藤には、もう、それこそ毎日、ハルのこと、話してて、

……で、呆れられてるんだけど」



それを聞いて、志穂の顔がパッと明るくなった。

そして、笑った。



「あはは。なんだ。だから、斎藤くん、知ってて、心配してたんだ」

「たぶん」

「斎藤くん、家、この辺なんだ」

「ああ、らしいな」

「学校まで、徒歩圏内って、いいよね」



志穂は言いながら、鞄を開けた。

オレが呼び出すか、でもどう言おう、なんて思っていると、志穂はスッと立ち上がった。



「男バスも、もう終わってると思うから、電話してくる」

「番号、知ってんの?」



教室ではしゃべってるの、見たこともないのに。



「昨日、交換したの」



と、志穂はニッコリ笑い、店の外まで電話をかけに行った。
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