教壇と愛の狭間で~誰も知らない物語~
すっかり砂が下に落ちてしまった砂時計を眺め、あたしはため息をひとつ。


砂が全部落ちると、なんとなく虚無感が襲ってきた気分になった。


「ねぇ」


心配顔で陸がやって来る。


「あ、いや、なんでもないからね」


話をはぐらかそうとするが、陸はもちろん納得出来ないという顔だった。


「水香、何かあったんでしょう?」


「なんでもないよ」


「私には話せないことなの?」


「ごめん、ごめんね。陸」


「わかったけど、何かあったら相談してよね。なんでも聞くから」


「ありがとう」


陸、ありがとう。


そしてごめん。


陸だって先生を好きな人の1人だもの。


「ねぇ、話変わるけどさ」


頬を赤く染めて陸が言う。


「ん?」


「神沢先生ってカッコいいと思わない?」


もし今、ジュースを飲んでいたら間違いなく吹き出したと思う。


ご飯だったら多分むせているな。


「そう?」


「うん!森田先生もいいけど、今は神沢先生かな。知的でクールだし、それでいて優しいから」


前言取り消し。


しかも「今は」だとぉ!?


この浮気者がー!


…なんてことは間違っても言えない。


それに、ライバルが1人減ったことになるしね。


「へ、へぇー」


言えないよ。


「実は翔君はあたしのいとこなの」だなんて言えないよ。


もし言ったら、メルアドを教えろだの仲を取り持てだのやたらうるさく言われて付き纏われそうだもの。
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