教壇と愛の狭間で~誰も知らない物語~
森田先生は何事もなかったかのようにプリントを拾う。


そしてそそくさと走り去ってしまった。


その顔はすごく悲しそうだった。


「翔君、ひどいよ。どうしてこんなこと…」


「それは前から言っている。君が好きだからだ」


翔君のあたしへのまっすぐな気持ち。


混じりけのない澄んだ瞳から放たれる、まっすぐな視線。


ごめん。


でもどうしても無理なんだ。


あたしはあなたの気持ちには応えられないの。


だってあたしは…。


あたしは!


あたしは無意識に先生の走っていった方向へ走り出していた。


あたしは先生が。


森田先生が好きなんだ。


本館の廊下、教室、地学準備室、会議室、特別棟…。


更に体育館を探すけどいない。


そうしている間にどんどん生徒が登校してくる。


「水香、どうしたの?」


生物準備室の前で振り向くと、登校してきた陸が不思議そうな顔をしていた。


「ううん。なんでもないよ。陸は?」


「私は小野崎先生に呼ばれてさ」


ちなみに小野崎先生は副担任で生物担当。


陸と別れてまた先生を探したけど、いなかったので諦めた。


英語の授業に森田先生は現れたけど目も合わせてくれなかった。


あたし…怒らせちゃったんだ。
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