教壇と愛の狭間で~誰も知らない物語~
「…」


廊下を見たが、不審者なんていなかった。


だけど、どうして誰かが甲高い叫び声をあげたのはわかった。


なぜなら森田先生が女の子達に囲まれ、集中攻撃を受けていたからだ。


先生、相変わらずモテるもんなぁ。


みんなで一斉に先生を口説き落とそうと話しかけている。


女の子達は必死だが、端から見れば、まるで複数の人間が同時に声を発した時、聖徳太子のように聞き取れるか試しているみたいでなんだか滑稽だ。


先生はあたしを見ると「お前、こいつらをなんとかしてくれ」というような顔をした。


そこであたしは「そんな大勢の人間、勝ち目がありません。自分でなんとかして下さい」という表情を返す。


だって10人はいるであろう女の子を1人で追い払うなんて無理だもの。


ふと見ると、先生は女の子達を冷たくあしらっていた。


彼女達には興味がなく、むしろ言い寄ってくるのがうるさいらしい。


ちょっとひどい扱いでかわいそうだ。


っていうかみんな、左手の薬指の結婚指輪に気づいていないのかな。


かく言うあたしも言われるまで気づかなかったけど。


この時のあたしは、容姿だけで騒ぐ女の子達にわずかな嫌悪感を抱いていた。


前もこんな感情を抱いたんだっけ。


でもあたしは先生の全部が好きなのに。


そんな気持ちを視線に溶け込ませて、先生と女の子達を遠くから見ていた。
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