全部、私からだった。
「止めなくていいのに。全部奪ってくれればいいのに。私にとってはもう、りっくんが全てなのに。

りっくんは? りっくんは違うの?」


「違わないけど、駄目だろ? ここ、料亭だし」

耳元でりっくんの笑い声がする。



「じゃあ、場所変えようよ。そしたら止められなくても大丈夫でしょ?」


言うと、りっくんは両肩を掴んで、私の身体を少し引き離した。



そして、私を真っ直ぐ見詰めて言う。


「やっぱ違う、場所の問題じゃない。何て言うか、多恵とは、もっとゆっくり……。

ん〜、巧く言えない」


「わからないよ。好きだったら抱きたいと思うんじゃないの? 私だって、りっくんに抱いて欲しい」


「抱きたいけど――

それ以上に大事にしたい、多恵のこと」


言ってりっくんは、もう一度ギュッと抱き締めてくれた。





≪キスも私から≫


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