tearless【連載中】
「…じゃあ放っといてくれれば良いじゃん…」



どうして私はこんな事しか言えないんだろう?

これじゃあ、可愛げないって言われても仕方ない…。



『…こっち向け』



低く静かに放たれた言葉が心に影を落とす。



怒った…?

また、あの冷たい瞳で私を見るの?



「何で向かなきゃならなッ」



腕をグッと引かれ遮られた言葉。

向き合う形になっても尚、顔だけは上げられなかった。



『何で俺を見ない訳?』



頭上から降ってくる言葉にゴクリと息を呑むと、髪の毛からポタポタと垂れる雫を見つめる。

足元には水溜まりが広がり、映り込んだ私と璃琥がユラユラと揺れ動いていた。



『葵…』



本格的に降り始めた雨音に混ざり私の名前が耳に入り込む。



「…お願い、離して…」



こんな顔見られたく無いんだって。

分かってよ…?



それでも璃琥は“顔上げたら離してやる”と腕を離す気配はない。



一つ深呼吸をすると覚悟を決め、私が折れる形でゆっくりと顔を上げた。

アスファルトから足元、胸、首、と視線を上げる。

璃琥も傘を差していなかった為、シャツが肌に張り付いている。


 
< 71 / 230 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop