はらり一枚、一滴
ふわふわの絨毯が少し窪んでいる場所。ここに間違いない。


「これ、あげるよ。」


銀杏を差し出すポーズをする僕。


ぎゅっ


銀杏をつかむ透明人間の手が、一瞬僕に触れた。


それはとても、温かかった。



「じゃあね。」


僕は元来た方向へ歩き出した。


さく さく

…さく さく


ズレて聞こえる、遠ざかっていく足音。



振り返ると、透明人間が絨毯を踏みしめる度にゴッホの世界が、足下を舞っていた。
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