プリズム
「結城さん!」

絵理香がスーパーで買い物していると、誰かに呼ばれた。

声のした方に振り向くと、買物カートに二歳くらいの女の子を乗せ、礼央くらいの男の子を連れた女性が笑顔で手を振っていた。

ーあっ、保育園のお迎えの時、この人を見たかも…絵理香はそう思い、

「こんにちはー」
と愛想良く挨拶した。

保育園に入って三ヶ月しか経っていないので、同じ組の子供の名前も顔も 誰が誰のお母さんだとかも全然覚えていなかった。しかし、向こうはそうではなく、

「アヤトが礼央くんといつも遊んでるみたいでー礼央くん、すっかり保育園に馴染んで良かったねー。」

礼央の友達のママは、朗らかに言う。

「ありがとうございますー。」
絵理香は美容師の癖でにこやかに言って頭を下げた。

「ところでさー皆で礼央くんのママ、すごい若いよねーって話してたんだけど、礼央くんママ、いくつなの?」

客に歳を聞かれることに慣れている絵理香は

「二十二です。」
と即答した。

「えぇっ!じゃあ、十七歳で子供産んだの?」

ものすごく、びっくりされてしまった。

絵理香は、うっと答えに詰まる。

「じゃあ、高校生の時?」
アヤト君ママは、興味津々の目をして聞いた。

こうなったら、話をあわせるしかなかった。
「えっと…ギリギリ卒業は間に合ったんだけど。」
しどろもどろになる。

そこへおもちゃ売り場に行っていた翔と礼央が戻ってきた。

「あっ、行かなきゃ。どうも。またねー」と絵理香はぎこちない笑顔で言って、その場を去った。

帰りの車の中で翔にその話をすると、
「絶対元ヤンキーだと思われたね。」
と翔はハンドルをかかえ、大笑いしていた。


ーいちいち、礼央が夫の連れ子だなんて説明する必要はない。

翔と絵理香は礼央を迎えるに当たって、他人に家庭の事情を話すの絶対にやめようと決めていた。

それでは家族になれないと。

翔はことあるごとに
「俺たちは家族だ。」と言った。
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