蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
慧は絢乃から、雅人はとても有能な人物であると何度か聞いていた。
・・・そして、今日。
その言葉が真実であることを、慧は雅人を一目見た瞬間、直感した。
「・・・・・・・」
あれは、一流の男だ。
確固たる信念を持ち、自らの進むべき道を自らの意志で進んでいく男。
今はグランツ・ジャパンで一社員として勤めているが、いずれは北條財閥に戻り、父親の後を継ぐのだろう。
絢乃は気付いていないようだったが、乗っていた車も高級車の類に分類されるものだ。
そしてスーツや靴も、一目見て質がいいと分かるものを身に着けていた。
・・・まさに財閥の御曹司、という感じだ。
そんな男が、まさか絢乃の上司だったとは・・・。
慧はぱたんと雑誌を閉じ、本棚に戻した。
・・・恐らくこれは、絢乃には言わない方がいいだろう。
絢乃は雅人を純粋に、技術者として上司として尊敬している。
そして雅人も、恐らく社内では北條財閥の御曹司ということは伏せているのだろう。