蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
慧はテレビを見つめたまま、小さな、掠れた声で言う。
絢乃はその切なげな声に胸を打たれ、思わずじっと慧を見つめてしまった。
・・・美しく哀切な、その横顔。
なぜかその顔に引き込まれそうになり、絢乃は慌ててテーブルの上に置いたお茶に手を伸ばした。
たまに慧は、ドラマや映画を観ているとこういう表情を見せることがある。
そしてそれを見ると、絢乃は心の隅がかすかにざわつくような感じがする。
なぜなのかはわからないが・・・。
「・・・さ、アヤ。遅くなるから、そろそろお風呂に入りなよ」
「う、うん・・・」
にこりと笑って言った慧に、絢乃は頷き、立ち上がった。
・・・慧の先ほどの表情が気にはなるが・・・
けれど慧はこと自分の恋愛に関しては、一切話そうとはしない。
それは昔からのことで、絢乃ももうそれに関しては慣れている。
絢乃はテーブルの上に置かれた木製のトレーを持ち上げ、キッチンにそれを戻した後、お風呂場へと向かった。