蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】



「・・・言った傍からこれか。お前、運動神経ないわけ?」

「・・・っ」

「仕方ねぇな。こんな所で怪我されても困るしな」


言葉とともに、卓海の手が強引に絢乃の手を握る。

・・・昼食の前にも手は繋いだが、なぜか気恥ずかしい。

考えてみたら、男性とこうして手を繋ぐのは前の彼氏と別れて以来だ。

頬を染めて俯いた絢乃を、卓海は意地悪げな視線で覗き込む。


「なんだ? まさか、男と手を繋ぐのが初めてってわけじゃないだろ?」

「そ、そりゃ初めてじゃないですけど・・・」

「何緊張してるんだ。・・・本当に手のかかる道具だよ、お前は」


卓海は言い、くすりと笑った。

───どこか優しいその瞳。

いつものただ黒いだけの笑みとは違う、大人びた優しさを帯びたその微笑み。

絢乃は思わずその目に吸い寄せられるように、まじまじと魅入ってしまった。

鬼ではあるが、女性たちがこの男に惹かれる気持ちも分かるような気がする。

・・・って何を考えているのか自分は。

気恥ずかしさを振り払うように、絢乃は慌てて口を開いた。


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