恋愛温度(番外編も完結しました)
「そして、再びお前の家族を巻き込んだ。

 俺の親父の気休めの謝罪が…」


和司はつぶやくように言った。


小学生の頃だったか、父と母の言い合いを度々聞くようになった。



「何故受け取ったの?」


「彼にも、子供にも謝罪の義務はないのに、

 こうして気にかけてくれてる、ありがたいじゃあないか。

 
 もう、いい加減にするんだ、

 どうやったって俺たちの息子は戻らない。

 前を向いて生きるしかないだろう。」



毎年事故のきっかけになった子の父親があの日になると、

香典のように多額のお金をもって訪れた。


そしてその度、

事故から何年経とうと、母はそうやって弟のことを蒸し返す。

物心ついた時から、眉間にシワの入った母しか記憶にない。

母の心は歪んだフレームのようにこの世のものは映らない。

私がここにいても、

あの時2歳だった私が、何歳になろうと、

母の愛情はいつもこの世にいない弟のものだった。





< 234 / 311 >

この作品をシェア

pagetop