神様修行はじめます! 其の二
扇子の端から覗く奥方のまぶたが、ぴくんっと震えた。

明らかに動揺している。

それに比べて門川君の態度に一切の迷いは無い。


そう、彼はもう迷わない。

彼はやっと見つけたんだ。


命が生まれてくるのに理由もへったくれもあるもんか。

人は、生まれるべくして生まれてくる。


門川君が生まれてこなければ良かった、なんて事は・・・

もう誰にも絶対に言わせない。


門川君が生まれなければ、争いも生まれなかった?

彼さえ生まれなければ、皆、幸せだった?

彼の命は何の役にも立たない?


知ったことか。


そんなの彼が生まれた後で、周りが勝手に作り上げた状況だ。

いい大人が子どもに全責任押し付けてんじゃないわよ。

お陰で彼は「自分は生まれてきて良かったのか?」って余計な苦悩を持つハメになってしまったじゃないの。


門川君はただ、生まれるべくしてこの世に生まれてきたんだ。

良いも悪いもあるもんか。

あえて決めるとするならそんなもん、生まれた当人が決めることだ。


アホらしい。

他人に勝手に決め付けられたんじゃいい迷惑だ。


そして良し悪しも、意義も意味も、価値も。

それは全部、本人が望んで選んで決めていく。

それを、やれ天の定めだの、役に立てだの・・・

勝ち組だの負け犬だのと・・・。
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