幸せになろう
「お前はずっと、お姉ちゃんのそばにいたんだろ?
お姉ちゃんの体調がおかしいと思ったら、お前が病院に連れてくべきだろ?」
父はすべて俺のせいにした。
「でも、お姉ちゃんは、何度説得しても病院に行こうとしなかったんんだ。
子供の俺じゃだめだったんだ。父さんか母さんが説得してくれたら、お姉ちゃんも病院に行く気に
なったかもしれないんだ。
さんざん遅刻してきやがって。姉ちゃんの葬式だぞ!」
「慎一、やめなさい」
母が俺を止めようとした。だが俺は続けた。
「父さん達がいつもいないからいけないんだ。
父さん、母さんのバカ! 父さん達が姉ちゃんを見殺しにしたんだ!」
「いい加減にしろ! 家族が病気になったら、無理やりでも病院に連れていくのが当然だろ。
さやかを説得出来なかったお前が悪い!」
俺は父と激しく言い争った。
「何が家族だ、父さんは仕事々、母さんは遊んでばっかり。
いつも俺と姉ちゃんを放ったらかして、自分達は散々好き勝っ手していたくせに。
ろくに家にも帰って来なかったくせに。今更、親面して偉そうな事言うな!」
パーン!
ぶち切れた父は、俺のほほを強く殴った。
それは、葬式会場に強く響きわたるほどの平手打ちだった。
家族が死んだというのにまるで他人事のような態度を取り続ける両親。
それはまるで、死んでしまったものは仕方が無いとでも言うような態度だった。
あげくのはてに、父はこう言ったのだ。
「お姉ちゃんの事はもう忘れろ!」
忘れられる訳ないだろ。葬儀が終わると、両親はさっさと何処かへ行ってしまった。
それから、両親は、家に全く帰って来なくなった。
あの日以来、両親とはもう10年以上会っていない。
その後、しばらくは、近所の人達がたまに差し入れをくれたりしたが、そのうち誰も来なくなった。
俺は、あんな親を認めたくなかったんだ。

 「そんな辛い過去があったんですか。
だから、仮契約のときに両親はいないって言ったんですね」
エレーナのほほを涙がつたっていた。
「どうして君が泣くの。君が泣くことはないだろう」
「慎一さんのそんな辛い姿、私は見ていられません、涙が止まりません」
そう言ってエレーナは泣き続けた。
だが、気づくと慎一も泣いていた。
「何で、子供の頃の事がいまだに夢に出てくるんだ。
何度も々も同じ夢に苦しまなければいけないんだ。もう過去のことなのに」
いろいろな事を一気に思い出した慎一は、エレーナの前で大泣きしてしまった。



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