幸せになろう
「慎一さん……」
慎一を見つめるエレーナ。
ジェシーは、エレーナの腕を放した。
「しばらく様子を見るか」
ジェシーは、軽く笑って一人で帰った。
「慎一さん、大丈夫ですか」
「ああ、何とか。でも頭が痛い」
「私は嬉しかったです。慎一さんが私のことを大切な人だって言ってくれて」
慎一の中にまだ自分はいるんだ、エレーナは、そう思えたことが何よりも嬉しかった。
そして、慎一の記憶が、少しづつ戻りかけているような気がした。

 夕菜が、また見舞いに来た。
しばらく慎一と世間話をしていたが、夕菜は突然こんな事を言い出した。
「慎一さん、今日は、大事な話があって来たの。
私は、あの事故以来ずっと見舞いに来てたけど、どうしてだと思う?」
「俺を心配してくれているんだよな」
「そうだけど、でも、本当はそれだけじゃないの。本当は、慎一さんのことが好きだから」
そう言って夕菜は慎一に抱きついた。
「好きな人が記憶喪失なのに放っておけないでしょ?」
ふたりの光景をエレーナが目撃していた。
慎一に抱きつき、告白をする夕菜を見ていたエレーナは、泣き出しそうになった。
その場から逃げ出したい気持ちになった。
でも、エレーナはこらえた。苦しい気持ちを抑えつつふたりを見守り続けた。
だが、「何か違っているような気がする。とても違和感がある」
慎一はそう言って夕菜を引き離した。
「君とこういう事をしてたら、いけないような気がするんだ。
うまく言えないけれど、何かが違う。何か大切なものを忘れているような気がするんだ。済まない」
慎一は、夕菜を拒否した。夕菜はショックを受けた。
エレーナは、物陰からふたりを見守っていたが、正直ホッとした。
けれど、ショックは隠しきれない。夕菜が、慎一の事を好きだったとは。
 
 一方、両親のエレーナに対する圧力はさらに強くなっていった。
「いつまでその女を居候させておくつもりだ。
俺は許さんぞ。親の留守中に勝手に同棲なんかしやがって」
「父さん、エレーナさんは、俺にとって大切な人なんだ。
俺が記憶喪失になってから、ずっとそばにいてくれているんだ。だから追い出さないでくれ」
「まだそんな事を言うか!」
総一郎は、慎一を強く殴り飛ばした。
殴り飛ばされたショックで、彼は転倒、頭を強打した。
その時、慎一の中をさまざまな記憶が猛スピードで駆け巡っていった。
「父さんの言う通りよ。その人の家族も心配されているでしょう?」
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