夏の月夜と狐のいろ。



しばらく歩くと、広い広い砂漠の真ん中にぽつんと小さな小屋があるのが見えた。


『あそこは、どう?』


シアンはすぐそばのクロに尋ねた。

クロも気がついたらしく赤と青のオッドアイをじっとその小屋に見据えていた。


そして、ぴくぴくと耳を動かして尻尾を振るう。


『よさそうだな・・・でも明かりが点いてる。誰か居るんじゃないのか?』



クロはめんどくさそうに鼻を鳴らし、ぐるりとその場でまわると人間の姿に戻った。


「お前も戻れ。僕たちみたいなのが急に押し寄せてきたら、誰かが居たら驚かせてしまうだろう」


シアンは納得して頷いた。


もしばれれば、また捕まえられないとも限らない。


シアンはノエルをすぐそばに一度置くと、ふわりと人間の姿に戻った。


そして、お父様にもらった白いローブをかぶり、耳と尻尾をしっかりと隠した。



特別な生地でできているのか、このローブなら大量にある九本の尻尾もすっぽりと隠れる。



傍でクロがため息をついた。


「お前、耳や尻尾をかくせないのか?僕たちはいつも隠していたぞ」


シアンはぎゅっとローブを目元まで引き下げながらそっぽを向いた。



「誰にだって得意不得意はあるのよ」



ローブをかぶり終えてノエルを持ち上げようとすると、クロがすっと横に来た。



「貸せ。僕が運んでやる。」



シアンはちらっとクロを見た。そして、ため息をつく。



「無理よ。だってクロ・・・・小さいし」


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