夏の月夜と狐のいろ。
「俺の魔術はまだまだ未熟で弱い。結局のところはシアンに助けられたよ」
ノエルは苦笑いを浮かべて言う。
「それでもシアンのことは大切に思っているし、他の魔術師たちは嫌いだよ。安心して。」
ノエルがそう言うと、リリィはぴくっと耳を動かしてこちらを見つめてきた。
シアンが首を傾げるとリリィは満足したように尻尾を揺らした。
『シアン様。この人間だけは私も認めることにします。うそは言っていないように見えますから』
最後は、ちらっとノエルを見ながら言っていた。
ノエルも、嬉しそうに微笑んで居る。
リリィは申し訳なさそうに耳をたれながら言う。
『さっきは申し訳ありませんでした。ごめんなさい、私にはシアン様が・・・森のみんながすべてでしたから。』
一瞬だけリリィが暗い顔をしたのが見えて、少し胸が締め付けられた。
リリィがあんなふうにまで叫ぶように悲しんでいるのを見たことはない。
けれどリリィはすぐに明るい表情に戻った。
そしてリリィはひょいっとシアンの肩に上るとそこから下を覗き込んだ。
シアンの傍には、クロが伏せるように座っている。
『そちらの方は、狼でしょうか。あなたもシアン様のお友達ですか?よろしくお願いします』
クロは尻尾を揺らして小さく唸る。
『・・・ああ。友達というか、まぁ・・・それでいい』
クロは言葉を濁してぷいっとそっぽをむいた。
リリィが楽しそうにゆらゆら尻尾を揺らす。
『ふふ、照れ屋さんなんですね』
シアンはほっとしてリリィを見つめた。
いつものリリィに戻ったみたい。
優しくて、明るくてちょっと過保護なリリィ。
これからリリィが傍にいると思うととても嬉しかった。