夏の月夜と狐のいろ。
人間はすぐ傍まで来た。
明らかに怪しんでいるような目でこちらを睨み、最初にシアンに向き直る。
肩のところで、リリィがローブの奥に隠れたのがわかった。
「おい、小娘・・・検問のためだ、そのローブを脱げ」
人間は予想していた通りの言葉を吐いた。
シアンはぐっと下唇を噛んでそいつを睨む。
脱ぐわけにはいかないわ・・・!
シアンがじりじりと一歩下がると、人間は苛立ったように怒鳴った。
「おい!いうことをきけ!」
シアンが言い返そうとする前に、人間がシアンのローブに手をかけた。
それをシアンは、必死に抑える。
横からノエルもギリギリと人間の手を握りながら、低い声で言う。
「シアンから手を離せ」
人間は、一瞬驚いたように顔をゆがませたが、すぐに怒りに満ちた目をして後ろをむいて叫んだ。
「こいつらを連行しろ!」
すると数人の人間がノエルを押さえ込み、傍で人間を追い払おうとしていたクロも押さえ込んだ。
「おい、こいつこんな生き物まで連れてるぞ!」
驚いて悲鳴をあげたリリィも、人間に見つかってローブの隙間から引きずりだされてしまった。
人間は乱暴にリリィの尻尾をつかんで、さかさまにして振り回した。
痛みに、リリィが悲鳴をあげる。身体から少し火花が散った。
「リリィっ!!」
―だめよリリィ!
リリィの特異体質がばれれば、ラシッドのもとへ連れて行かれるかもしれない・・・
ここはラシッドの支配する町だ!
どうしよう、どうしよう・・・!!
抵抗もできないまま途方に暮れて泣きそうになったとき、後ろから聞き覚えのない声が
シアンの獣のものである耳だけにきこえた。
(目を閉じろ!)