夏の月夜と狐のいろ。



「また気絶させられたいか?」


仰向けのままガチャガチャと拘束具を動かしていると
いきなり視界にラシッドが現れた。



赤い瞳が不気味に揺れる。



天井につけられたライトの逆光でラシッドの顔がよく見えず
ただ赤い瞳だけが浮き上がって見えた。



反射的にシアンは動きをとめる。



「そうそう。大人しくしとけ。
お前はもう逃げられないんだからな」


そう言ってくつくつと喉の奥で笑い声をたてるとラシッドは
背をむけて何かを取り出した。




そしてそれをラシッドは、シアンの視界に入る範囲においた。



「これが何かわかるか、狐?」



シアンは驚いて目を見開いた。



そこにあったもの。それは。



緑色をしたホルマリンの中に浮かぶ、何とか人の形を成した肉塊だった。


< 69 / 195 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop